ことばの惑星通信 

人間ってなに?ことばってなに?生きるってなに?日々考えることを綴ります。

PACHINCO 物語が与えてくれるもの

こどもながらにもことばの雰囲気は敏感に感じ取っていた。

 

朝鮮人ということば。

このことばを聞くたびになにかしら嫌なものを感じていた。

めったに口にしてはいけないようにも感じていた。

 

アメリカ人とか、フランス人とか中国人とかいうことばには感じないのに、

朝鮮人ということばにはなにかある気がしていた。

 

在日ということばも同様だ。

 

PACHINCO

このタイトルにまず気持ちが惹かれた。

著者は在米韓国人のMin Jin Leeという女性の作家。

日本にも少し住んでいたことがあるよう。

 

10年という歳月をかけてこの小説を書いたという。

 

日本と韓国。

朝鮮半島と日本。

長い歴史の中で戦争に翻弄されながら、過酷な人生を生きた女性とその夫、

そして息子たち。

 

面白いのは男性たちの名前が聖書に登場する人物であることだ。

イサク、ヨセフ、ノア、モーゼス。

あ、ひとりだけ男性だけど聖書の名前でない人もいる。

でもその理由もわかる気がする。

 

差別と貧困の中で、そしてことばも不自由な中で知恵と労力を働かせて

必死に生きていく女たちの姿に生き抜く勇気をもらう。

決してこれだけは譲れないという気高さも。

 

そこにはなに人であるとか、何語を話すとかいったこととはまったく関係なく、

なにを大切に思って生きているかだけが浮き彫りになる。

 

本は物語という形でそのことを見つけるきっかけを与えてくれるもの。

全米図書賞を受賞したというこの作品、多くの人に読まれるといいと思う。